タイは「アジアのデロイト」とも言われるように、トヨタや三菱など名だたる日系自動車メーカーが主要な生産拠点としているだけではなく、様々な業界・分野で数多くの企業が進出・事業展開を行い、成功を収めているケースが多い国の1つです。
特に2020年にはコロナウイルス の感染拡大により、経済的なダメージ、渡航制限や外出制限など多くの苦難があったものの、日本のタイへの直接投資(FDI)は中国を抜いて首位となり、タイへの進出意欲の高さは世界でも群を抜いてることわかります。
本記事を執筆する私もタイへビジネスでの渡航回数は10回を超え、300以上の商談や他実務も多く行なって参りましたが、結論として「タイは日本人および、日本企業がビジネスがしやすい環境」と言う考えを持っており、「日本企業がタイに進出する理由も筋が通っている」と感じております。
それぞれの企業にタイ進出の思惑がありますが、大きな理由としては下記のメリットがあるからです。
- 日本企業の先行事例とネットワーク
- 生活・社会インフラが整備されている
- BOIなどの優遇制度
- まだまだ安価なコスト
- 若くて優秀な人材が豊富
- 経済成長と現地消費の高まり
- 根強い日本ブランド
- 世界各地へのハブとしての利便性
- 人口動態の変化やタイランド4.0による新しい商機
では経済の状況やデメリットも交えながら詳細を解説していきます。
目次
【大打撃?】2021年コロナ禍でタイ経済は?今後の見通しは?
回復傾向だが、2020年のGDPは6.1%のマイナス
タイ国家経済社会開発委員会(NESDC)が2021年2月15日に発表したレポートによると、タイの2020年の国内総生産(GDP)は6.1%のマイナスであったとのことです。
コロナウイルス の蔓延に伴い、アジア通貨危機が起きた翌年の1998年の下落以降、最大の落ち込みであり、通年でのマイナスの成長は2008年以来初めてのことです。
これは外出制限、渡航制限、また国内外の景気が減速したことにより特に物品・サービス輸出、民間投資、民間消費が落ち込んだことに起因しております。
このように2020年はタイのみにあらず、ASEAN(東南アジア諸国連合)でも過去20年で最大の落ち込みであり、すでにタイに進出している多くの日本企業が厳しい経営状況に追い込まれ、撤退の決断をした企業も少なくはないでしょう。
一方で今後の予測としては、NESDCは制限緩和や世界的な経済の回復によって、2021年のタイの経済GDPは2.5~3.5%拡大するしております。
タイに進出する日本企業の最新動向と展望
短期的に見るとコロナウイルス の影響で経済状況の悪化、また日本企業の低迷などがありましたが、中長期的に見るとタイに進出することは売上の拡大、生存戦略ということができ、日本企業が進出する理由があり、数値としても現れております。
【2020年】日本企業によるタイ国内への投資額が世界1位に
冒頭で説明したように2020年のタイ国外からタイ国内への海外直接投資(FDI)の申請件数は907件で、総投資額は2,132億バーツ(約7245億円)となり、日本が他国を寄せ付けず最大の投資国となりました。
メモ
海外直接投資(FDI)とは "Foreign Direct Investment" の略で、海外での永続的な権益の獲得を目的に投資を行い、事業を営むため、現地法人や子会社、工場を設立することや対象国の現地企業のM&Aを行うことを指します。
つまりコロナウイルスでの短期的な経済へのダメージ、落ち込みはあるものの、日本企業はタイマーケットへの中長期的な伸びを見据え、進出活動を行なっていることが言えます。
タイ:タイへの直接投資は、日本が首位に 全体の約4割を占める(東南アジア進出ナビ)
タイの日本企業数は増加し、中小企業による進出が拡大
2017年10月18日のJETRO バンコク事務所「タイ日系企業進出動向調査 2017 年」調査結果によるとタイで事業活動を行なっている日本企業は5,444社で2015年の調査から約877社ほど増えているとのことです。
・これまでは製造業者のタイへの進出が多かったが、非製造業(情報通信業やサービス業など)の企業による進出数が上回った
・中小企業による進出数が大企業による進出数を上回った
と言う傾向があったとのことです。
これはタイに日本企業が進出する理由の部分で後述をしますがタイ国内の生活・社会インフラが整ってきたことにより、現地でのビジネスがし易くなっていることの表れでもあります。
またタイはこれまで日本の大企業の生産の拠点としての機能を担っていたことに加え、タイ国内の消費を狙った進出も多くなっていることがわかります。
最近の日本企業のタイ進出に関するニュースと事例
・タイ:スシローのタイ進出、3末にオープン予定【最新情報と進出過程まとめ】
・【難航?】コメリのタイ進出の最新動向を解説をしてみた【2021年最新版】
日本企業がタイに進出する理由やメリットは?
東南アジアへの進出をしたいと考えた時には一見同じような環境であるということで、シンガポールやマレーシア、ベトナムをイメージすることがあります。
しかしなぜ日本企業はこれほどまでもタイに進出しており、その理由やメリットはどこにあるのでしょうか。
日本企業の先行事例とネットワーク
タイにはすでに5,000社以上の日本企業が現地法人を構えて進出をしており、法人を持っていない日本企業を合わせるとその数は膨大です。
これがもしほとんど日本企業が進出していない国、もしくは進出していても日本企業の業種が偏っている国であれば、二の足を踏んでしまうことでしょう。
もちろん競合になる可能性がないとは言い切れないものの、すでに進出の事例があると言うことは検討する上での重要な材料になり得ますし、事例の研究を徹底的に行うことで成功確率を高めることができます。
また進出している企業同士の情報の共有や、協業の可能性なども魅力的でしょう。
生活・社会インフラが整備されている
タイは1年単位で街の様相が変わるほど、生活や社会インフラが整ってきております。
おそらく10年前にタイに行ったことがあると言う人が今のタイを訪れてみると、そこは別世界になっていることは間違い無いでしょう。
急激な発展を遂げ、インフラが整備されているので現地での営業活動や基盤づくりがスムーズになりました。
また日本にいながらも現地でのマーケティングやインターネットを通した商談、進出前に伴うテストなど他の東南アジア諸国よりも容易にできることがタイに日本企業が進出する理由の1つでしょう。
BOIなどの優遇制度
タイでは海外からの投資を活発にするために外国企業に対しての優遇制度を用意しています。
その1つとして名前も知られているのがBOI(The Board of Investment of Thailand)と言うタイ国投資委員会です。
郊外、また工業地域内での計画に対して、外資規制の緩和(具体的には外資100%や50%以上で法人の設立が可能になる)、法人所得税の免除、輸入税の免除など様々な恩恵を受けることができる。
一部の業種や申請のハードル、手間などがあるものの、日本企業が他国ではなくタイで生産の拠点を構えようとした時には大きなメリットとなり、進出するにたる理由となるでしょう。
まだまだ安価なコスト
経済の発展と共に人件費、賃料など事業にかかるコストは上昇しつつありますが、日本と比べるとまだまだ安い方です。
人件費のデータを参考にしてみますが、2018年に公表されたタイの国家統計局のデータによると下記が地域別の平均給料となります。
全土 94,311円
バンコク 146,639円
中部 94,647円
北部 66,661円
北東部 70,948円
南部 94,195円
(1バーツ=3.5円計算)
もちろんどの分野で何を目的にタイに進出するため、どのような人材を雇用するかにもよりますが、基本的な人件費は日本と比べても安いことがタイに日本企業が進出するメリットであり、理由であります。
若くて優秀な人材が豊富
日本は少子高齢化社会を迎えてそもそもの若年層の母数がどんどんと少なくなっているのが現状です。
それに加えて全体としてみれば、日本は島国という土地柄もあり、海外と比べてしまうとどうしても「競争意欲がなく、主張もしない」という評価を受けていることもあるでしょう。
一方でタイは人口は微増ではありますが、増えておりますし日本に比べても若い人の割合も多く、優秀な方も多いです。
中でも日本で不足しており、単価も非常に高いエンジニアは人件費もかなり上がっており、現地での採用の競争は激しくなってきてはいるもののまだまだ若いポテンシャルのある人がたくさんいます。
その点で日本企業にとってタイに進出することは、若くて優秀な人材を確保できるということも繋がります。
経済成長と現地消費の高まり
タイの国内総生産(GDP)の実質成長率は2018年、2019年と4.2%、2.4%で、2020年はコロナウイルス の影響でマイナスに転じてしまったものの高い成長率を保っております。
またタイの人口は長期的に見ると2028年をピークに減少し、労働人口も減少する見通しではありますが、2020年時点で6802万人を抱え、世界の中では20番目に人口が多い国でもあります。
高い経済成長率と人口のボリュームでタイでの消費市場は盛り上がりを見せており、生産の拠点としてタイに進出する日本企業はもちろんのこと、先述しておりますが現地での消費需要を捉えたいと進出する飲食関係やITサービスを提供する企業も増えてきております。
例えばバンコクの日本食レストランなどは価格は日本と同等、もしくはそれ以上で提供されていますが、現地のお客様の客足が絶えないお店もそこら中で目にすることができます。
根強い日本ブランド
タイ人の日本や日本人への印象は良いと言っていいでしょう。
実感値としても私がタイでサービスを売るために営業していた際には「立ち上げたばかりのサービスである」「無名の会社である」「代理店を使っていない」にも関わらず、多くの商談と契約に繋げることができました。
もちろんサービスや商品が現地向けにカスタマイズされている必要はありますが、日本という国に対してのブランドは強く、日本企業が現地で事業を行う際にはプラスに働くことが多いのがメリットでありタイに日本企業が進出する理由です。
例えば日本で使用された生活家電やバッグなどのブランド品がタイに持ち込まれ「日本からの中古品だから高品質に違いない」と言うイメージで高い人気を誇っています。
世界各地へのハブとしての利便性
日本からも飛行機を使えば6~7時間程度で行き来することができますし、タイはミャンマー、ラオス、カンボジア、マレーシアと陸路で繋がっている他、東南アジア各国へのアクセスも非常に良いです。
またアジア内での移動はもちろんのこと、中東や欧州、アフリカなどの地域への国際便も飛び交っているので、世界的な進出を目指している日本企業にとってはタイは利便性に優れております。
日本企業がタイに進出するリスクやデメリットは?
日本企業がタイに進出する時に生じるリスクやタイに進出することによるデメリットを解説していきます。
少子高齢化と労働人口の減少
中長期的なスパンで見るとタイは日本と同様、少子高齢化が進み、伴って労働人口が減少していきます。
2050年には人口のピークの約7,000万人から6,500万人程度まで減少すると予測されており、それに伴い労働人口は現在の70%から60%弱まで縮小する予測になっています。
その一方で東南アジアの隣国であるカンボジアの人口は2018年の約1,600万人から2050年には2,100万人近くまで拡大を続けるほか、ミャンマーは2018年の約5,300万人から2050年には約6,200万人に登る予測となっています。
人口の成長率という側面でいうとタイに進出することは隣国と比べるとデメリットになり得ます。
人件費や賃料などの上昇
日本と比較をするとタイの人件費や賃料などは安いというものの、直近の事例でいうと2020年1月1日にはタイ内閣は最低賃金の改定を行なっています。
タイでは日給換算が行われており、プーケットでは6バーツ(21円)、ラヨーンでは5バーツ(17.5円)、バンコクでは6バーツ(21円)ほど引き上げの改定が行われました。
また経済の発展と共に賃料なども上昇の傾向にあるため、「コストダウン」を求めてタイに進出する日本企業にとってはタイはベストな選択肢ではない可能性も考えられます。
日本企業内での競争と激化の可能性
メリットの箇所で日本企業の進出事例の多いタイは先行事例の研究がしやすい、また日本企業内での協業もできるということをあげましたが、需要を超えて供給が過多となってしまうと競争が起きてしまう、もしくは激化してしまう可能性も否めません。
もちろん協力し合うということが理想の形ではありますが、利益追求の活動を行なっていく中でのシェアの奪い合いが起きたり、価格競争が起きてしまい、タイに進出する旨味がなくなってしまう可能性やリスクも考えられます。
その点、東南アジアに進出を考えているのであれば他国の方が先行優位性を得られるかもしれません。
不安定な政治事情やタイの国民性
タイは2014年から軍事政権が続いておりましたが2019年3月に総選挙が実施され民政に移行しました。
ただ実質的には軍事政権の暫定首相であり、陸軍出身のプラユット氏が新首相として選ばれ、軍の影響力が色濃く残っているのには変わりませんが、民政に以降したことによって、民主化勢力が息を吹き返し、再び政治や治安の混乱などが起きる可能性があります。
軍事政権時代はよくも悪くも、反対派(民主化勢力)を強制的に抑えこんでいたので、政治的な安定はありましたが、今後はでもやクーデターなどが起き、日本企業への影響が出ないとは限りません。
2020年の8月16日には反政府デモが起きておりました。
またタイでは国王は国民からの絶大な尊敬と信頼を得ており、国民の心の拠り所になっております。
そのため国王が逝去することなどがあると、国民に自粛ムードが流れ、購買意欲の低下などが起きる可能性があります。
市場の変化と日本企業のタイ進出における商機とは?
タイの市場の変化
東南アジアは全体としては経済的な成長を続けているものの、タイはここまで解説をしてきたように「今から急成長していく」というフェーズではありません。
どちらかというとこれから成熟期を迎えていくので、タイに進出する日本企業の理由にも変化があるでしょう。
中間層や富裕層の増加
タイでは経済的な成長を経るにつれ豊かになり、貧困層・中間層・富裕層という枠組みで捉えると中間層・富裕層の割合が増していっております。
つまり平均給料の上昇なども合わせて考えると、可処分所得が増加していると言うことになるので生活に必要な消費もそうですが、それ以外の嗜好品への出費や教育などへの関心とニーズがより高まりを見せるでしょう。
そのため日本の何かこの分野で製品やサービスの提供を行なっている企業にとってはタイに進出する理由となるでしょう。
高齢者の増加
タイは先述したように少子高齢化に突入しております。
特に顕著なのが高齢者の増加で、65歳以上人口比率は2030年代に1割を上回ると見込まれています。
これはタイ国内での介護と医療の重要性が増すことを意味しております。
それでいうと日本はすでに少子高齢社会であり、介護と医療分野における質はどこの国と比較しても群を抜いているので、日本のサービスはタイでも需要はあるでしょう。
ちなみに筆者の私も以前、日本の地方の介護事業者を回っていたことがありますが、「タイに視察に行っている」という話を何件か耳にしておりますので、今後はその動きが加速していくでしょう。
新経済政策「タイランド4.0」は日本企業にとって追い風となるか?
「タイランド4.0」新聞やテレビのニュースなどで目にしたこともある方も多いのではないでしょうか?
多くのタイに進出する日本企業が関心を寄せている経済政策の1つであり、2016年に発表された経済政策で、簡単に言うと「今後20年をかけ、産業を育て、タイを豊かにしていく」ことを諸外国の協力を得ながら目指す政策であります。
具体的に言うとタイランド4.0では
-次世代自動車
-スマートエレクトロニクス
-医療ツーリズム
-農業とバイオテクノロジー
-食品分野
-ロボティクス
-航空・ロジスティクス
-バイオ燃料やバイオ化学
-デジタル技術
-医療ハブ
上記の10の産業でのイノベーションを起こさせるために、消費税の減税や輸入税の免除、また財政的な支援を国として行なっていく表明がされています。
中でも日本はこれまでタイとの良好な関係を気づけており、これまでタイの副首相が何度も日本を訪れるなど、タイ社会に日本の技術が不可欠であるとして、日本企業に投資と協力を呼び掛けている事実があります。
これからタイへの進出をする日本企業が進出前にすべきこと
これからタイに進出・事業展開をしたいと考えている日本企業も多いことでしょう。
タイに進出する理由は様々であると思いますが、中でも進出をする前に気をつけるべきこと、知っておきたいことを実際に私がタイで不動産の広告事業の立ち上げを行なった経験も含めながら簡単に解説していきます。
国内事業を盤石の体制にする
海外での事業は今回のようなコロナウイルス の蔓延で、経済的なダメージを追うこともありますし、出張に行くこともできないと言う状況も起こり得ますし、また政治的な不安定など、外部の影響をより受けやすいです。
難易度に関して言えば高いと思っていた方がよく、たくさんの失敗があるでしょうし、少ながらずの投資は必要になります。
そのため国内である程度の基盤がないと共倒れリスクもあります。
なので「国内の事業が上手く行っていないからからタイに進出する」という判断はあまりお勧めできません。
事前の情報収集、調査は入念に
進出前の事前の情報収集や調査は入念に行うことが良いでしょう。
先行事例はあるか、市場やニーズはあるのか、競合はどうなのか、そもそも商品やサービスはタイ人に受け入れられるのか、どのような改善をすれば良さそうか、法人を設立する必要はあるのか、法律や規制などはどうか、など調べなければいけないことは山積みです。
テストマーケティングなどで仮説検証と改善を繰り返す
進出前にもし可能であればテストマーケティングなどで仮説検証を繰り返し行うことが大切です。
小さな失敗をたくさん繰り返しておくことで、タイの市場の理解を深めながら、進出後に事業にアクセル全開で踏み切れるようなテストや仮説検証、改善を行うことが大切になってきます。
ただそれはリスクを最大限に抑え、成功確率をあげる、近道をする可能性を高めるだけであって基本的には「やってみないとわからない」ことがほとんどです。
東南アジア進出ナビでは東南アジアへの進出支援を行なっております。
「何から手をつけたらいいかわからない」
「社内に適切な人材がいない」
「業務をアウトソースしたい」
など、東南アジアでの事業の情報収集や現地調査〜実務の代行まで行います。
無料相談から承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
タイに日本企業が進出する理由やメリット・リスクまとめ
タイに日本企業が進出する理由・メリット
- 日本企業の先行事例とネットワーク
- 生活・社会インフラが整備されている
- BOIなどの優遇制度
- 食や住環境、文化が日本人にフィット
- まだまだ安価なコスト
- 若くて優秀な人材が豊富
- 経済成長と現地消費の高まり
- 根強い日本ブランド
- 世界各地へのハブとしての利便性
- 人口動態の変化やタイランド4.0による新しい商機
タイに日本企業が進出するデメリット・リスク
- 少子高齢化と労働人口の減少
- 人件費や賃料などの上昇
- 日本企業内での競争と激化の可能性
- 不安定な政治事情やタイの国民性
タイに進出を検討しているなら読んでおきたい記事
【知らないと損】海外進出で使える補助金、助成金の一覧【2021年】